2011.01.08

Best Disc 2010 【All Genre】 中島ノブユキ "メランコリア"

ブラジル以外の、2010年ベストの10枚、順不同。

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●中島ノブユキ /メランコリア

たとえば、カルロス・アギーレや、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート。国もジャンルも楽器編成もバラバラだけれど、これらがある共通の感覚を持った音楽として語られ始めて、じわじわと話題を集めた一年。ある人はそれを<メランコリック>と呼んでみたり、誰が言い始めたのか憶えてないけれど<静かなる音楽>と呼びはじめたり。個人的には、それらが自然発生的に顕在化した年として記憶される一年だった。共通しているのは、単に静かであるというより、静寂と寄り添うように存在する音楽であるということ。
どんなかたちであれ、普段は話題として取り上げられる機会が多いとは言えないそうした音楽のリリースが活発化して、コンサートにも人が多く集まった。そういう意味で、それらの音楽を愛する者のひとりとして、こんなに楽しい一年はなかった。

前置きが長くなったけれども、中島ノブユキは、その中心アーティストとされる音楽家のひとりだ。優れたピアニストで、同時に優れた作編曲家による本作をひと言でいうならば、室内楽、というあたりにやはり落ち着くだろうか。マーラーの「アダージェット」、ピシンギーニャの古典的サンバ・カンサォン「カリニョーゾ」、ビックス・バイダーベックの「イン・ア・ミスト」などのカヴァーに加えて、自身のオリジナルが並んだレパートリーによる、十分に抑制がきいた、ひたすら美しい音楽集。ただし室内楽とはいっても、中世のお城やコンサートホールではなく、東京の路上が似合う音楽。都会の喧騒のなかにあって、一瞬の静寂を取り戻すために。

ここからは勝手な想像の世界だけれど、ピアノとバンドネオン、チェロを中心としたこのような編成だけでなく、オーケストラや、もしくは3ピースのロックバンドでもいいのだが、例えばそんなフォーマットのために書かれた音楽があったとしたら……抑制への反動が主題となるような、より過激な音楽を聴けるのではという気がしている。深読みするなら、そんなざわめきの気配もここには漂っているように思う。

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