2010.12.31

【Brasil Best Disc 2010】 #1: Roberta Sá "Pra Se Ter Alegria"

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Roberta Sá "Pra Se Ter Alegria"

09年末リリースだったような気もするけれど。やはりDVDのほうが収録曲数は多いものの、CDでも充分楽しさが伝わるライブ・アルバム。

ポップ・ミュージックとしてのサンバを復権させた歌姫で……なんてカタい話は、すでにあちこちに散々書いてきたのでいいとして。楽曲の美しさ、演奏の楽しさと、一緒に歌ったり踊ったりできるポップスとしての強度を、世界のなかのどの音楽に感じるかといえば、僕の場合は他のどれよりも、やはりサンバに感じる。それも例えば、ホベルタ・サーの音楽に。
本作の内容としては、1st、2ndのレパートリーを、その2作のプロデューサーでもあるホドリード・カンペーロの監督のもと具現化したもの。このライブ盤でしか聴けない何かがあるわけではないけれど、ベスト盤代わりに楽しむには最高の内容になっているはず。

今年夏頃リリースされた、弦楽ショーログループ<トリオ・マデイラ・ブラジル>との共作『Quando o canto é reza』も隙のない力作だったけれど、やや表情が硬いというか、表現されている世界観が幾分真面目すぎたところがあるように思う。ホベルタとトリオ・マデイラとの組み合わせで、本作には未収録曲の"Afefé"は静かな幸福感を湛えた最高のサンバで、僕が監修したコンピレーション『Samba-Nova』にも収録したけれど、ここを超える曲は残念ながらなかったと感じている。
ただし想像では、ライブはCDを超える魅力があるような気がしている。今年実現した、ペドロ・ルイスとの連名での来日公演も素晴らしかったし。

Roberta Sá on myspace

というわけで、ここまでがブラジル編でした。皆様よいお年を!
年明けにオールジャンル編をアップ予定です。

2010.12.29

【Brasil Best Disc 2010】 #2: Seu Jorge and Almaz "S.T."

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Seu Jorge and Almaz "Seu Jorge and Almaz"

こちらも声の人、セウ・ジョルジ。そのブラック特有のノドの色ツヤ、理想的な苦みを含んだ歌声を最初に聴いてすぐ思いついたのが、他ならぬギル・スコット・ヘロン(2004年のbounce誌にもそんなことを書いた)。セウ・ジョルジはまた優れたソングライターでもあって、サンバのマランドラージェン、ならず者の空気を宿した曲を書くことのできる貴重な存在、期待の星、代わりのきかない現代ブラジル最高のスターだ。

細かないきさつは知らないけれど、米Stones Throw傘下のNow Againからリリースされたこのアルバム、先行シングルがロイ・エアーズ"Everybody Loves The Sunshine"だったり、マイケル・ジャクソン"Rock With You"のカヴァーも入っていたり……本当はもっと彼のオリジナルを聴きたいという本音もある。でもこのアルバム、何しろバンドが最高。ナサォン・ズンビをはじめ、ストリート系の尖った作品に欠かせないプピーロ(ドラムス)とルシオ・マイア(ギター)。さらに「シティ・オブ・ゴッド」など、サウンドトラック制作で最も多忙を極めるアントニオ・ピント(ベース)。ダブ/レゲエやファンク、サンバを消化した、重心の低い、オリジナリティあふれるサウンド。ストレートにロックぽさが表に出ている曲はさほど多くないけれど、全体に手ざわりとしてのロック、ほとんど古今東西のロックンロールのクールな部分だけを抽出したかのような感触もあって、クセになる。2・3年ほど前からまた北米のロックをよく聴くようになったけれど、サウンド面での面白さとしては、このAlmazや、カエターノ・ヴェローゾの<セー・バンド>に敵うものはないぐらいだ。
リリース時、全曲フリーダウンロードできて話題になった作品でもありました。このアルバムをベースにしたショートフィルムなんかもあって、面白い。
Now Again / Seu Jorge and Almaz

2010.12.28

【Brasil Best Disc 2010】 #3: Milton Nascimento "... E a gente sonhando"

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Milton Nascimento "... E a gente sonhando"

ミルトン・ナシメントは可哀想だ。などと言ってしまうと、その筋のファンから集中砲火を浴びるに決まっているのだが。アーティストとしての一時代を、その声の魅力で築きあげたが故の苦しみ、とでも言うべきものが確実にあるような気がしてならない。実際、この20年以上、どんな力作を送り出したとしても、全盛期とされる1970年代当時と比べて声の状態がどれだけひどいか、またはマシであるかといったことしか、ほとんど語られていないようにも思える。

"A voz do brasil"、「ブラジルの声」と呼ばれるミルトンの声にまだ何の陰りもなかった70年代当時の作品に感涙し続けてきた人たちの気持ちもわからなくはない(僕だっててもちろんそうだ)。だけど、じゃあ、ミルトンの魅力ってそれだけなの?コンポーザーとしてのミルトン、唯一無二の音楽性と芸術性を高いレベルで具現化してきたプロデューサーとしてのミルトンはどうだろう。そうした、まだほとんど明らかにされていないアーティストとしての底力が、トレードマークの声が枯れてきたぶんだけ、十二分に聴き手に迫ってくるような充実作。
教会音楽とインディオ、またはアフリカ性やミナス特有のフォルクローレ感覚の混合に、はたまたボサノヴァ、ジャズ、ビートルズの影響、etc, etc......よく引き合いに出されるフレーズをここでいくら挙げてみても、その魔力からかえって遠ざかってしまうような計り知れなさ。けれども、その謎に惹かれて旅に出た者には、一瞬掠めとることのできるような親しみもちゃんとある。

ちなみにこの作品、試聴することをオススメしません。代わりにといってはなんですが、彼のオフィシャルhpでも。なかなか楽しいサイトです。
http://www.miltonnascimento.com.br/

2010.12.28

【Brasil Best Disc 2010】 #4: Antonia Adnet "Discreta"

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Antonia Adnet "Discreta"

あの底抜けに楽しいホベルタ・サーのライブDVDでも、まるで人形かと疑うほどに直立不動のプレイ・スタイルを貫き、かえって異彩を放っていた7弦ギタリストのデビュー作。マリオ・アヂネーの娘さんらしく、父君も連名でプロデュースを担当しています。

サンバやボサノヴァを下敷きにした、すこぶる感じのよい小品ばかりを集めたMPB作品で、ショーロ風のインスト3曲をのぞいて彼女自身がヴォーカルも務めた歌ものアルバム。ボサノヴァ以降、いい意味でアマチュアっぽさを残しつつ、かつ上質な女性シンガーの作品を多く産みだしてきたブラジル音楽界だけど、近頃はなかなかそうした作品に出会う機会も少なく、今年最もよく聴いたアルバムのひとつになった。

半数ほどでカヴァーも交えつつ、残り半分を占めるオリジナル曲がまた良い。2010年の時代性とか気分とか、そんなものに嫌気がさした久々の晴れ間に、ただただ気分を良くしたい時に、あたま空っぽにしてかけておきたい。絶世の美女にもそろそろ飽きてきた今日(こんにち)、思い出のあの日の君に、時計の針を戻してもう一度だけ……あっすいません、音楽はこちらでお試しください。

Antonia Adnet on myspace

2010.12.27

【Brasil Best Disc 2010】 #5: Delia Fischer "Presente"

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2010年のベストディスク、まずはブラジル編です。さくさく行きます!

Delia Fischer "Presente"

ピアニスト、アレンジャー、コンポーザーのデリア・フィシェル(ポルトガル語読み)。1999年にエグベルト・ジスモンチのレーベルCARMOからもアルバムをリリースしていた、というのは最近知った話だけれど、そのジスモンチやエルメート・パスコアルなどもゲスト参加した、なかなか豪華でヴァリエーション豊かなアルバム。

ピアノだけを聴いていると、まさに(ピアニストとしての)ジスモンチの影響下にある、プログレッシヴかつ耽美的な、独特の小宇宙を感じさせるサウンド。ただしそこから受ける印象は、アマゾンや、広大な大地の深遠さを前人未到のスケールで表現しているジスモンチのそれとは違って、ひとりの女性性が内包している宇宙とでも言えばいいだろうか。
大部分の曲で聴くことのできる彼女のヴォーカルの、少し素っ気無い感じの歌も、そんな印象を引き出しているような気がする。
美しく、演奏も最上級で、音楽的な冒険もそこかしこにあるけれど……どことなく、さくら色の親しみやすさ。

Delia Fischer on myspace

2010.12.26

ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート『イン・マントラ』 
2010年ブラジル・ディスク大賞

現在発売中の月刊ラティーナ2010年1月号。
その表紙を、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバートが飾っています。

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まずは、高橋健太郎さんによる、ヘナート&パトリシアの素晴らしいインタビュー記事。

そして、本誌とJ-WAVE「サウージ!サウダージ..」共催の年末恒例企画<ブラジル・ディスク大賞>。
弊社リリースのヘナート・モタ&パトリシア・ロバート『イン・マントラ』が、一般投票で4位、関係者投票(ライター各氏ほかによる)で2位に選ばれています。

このブログを読んでくださっている方の多くがご存知だとは思うけれども、この『イン・マントラ』は、ブラジル内陸部のミナス・ジェライスで活動しているヘナートとパトリシアが、インドやさまざまな音楽の要素を取り入れ、サンスクリット語でマントラを歌ったアルバム。そんな内容の作品が、日本のブラジル音楽界の由緒ある、ほとんど唯一のアウォードに、ここまで上位に食い込むとは。日本のブラジル音楽リスナー、関係各位の多大な好奇心と公平明大さに、大いなる感謝を。

2011年も、皆様が良き音楽生活と共にありますように。


ちなみにこのラティーナ1月号、拙文によるホベルタ・サー&ペドロ・ルイスのインタビューも掲載されています。ぜひご一読を!

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プロフィール
成田佳洋:
NRTレーベル主宰。
CDシリーズ/ラジオ・プログラム/DJイベント "Samba-Nova" プロデューサー。
音楽ライター・DJ・選曲家として、ワールド・ミュージック全般を中心に、ジャズ、クラブ・ミュージック、ロック・ポップスまでをフィールドとして活動中。ライナーノーツ多数。
最近の主なプロデュース作品: 藤本一馬『SUN DANCE』、ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート『イン・マントラ』、Tomoko Miyata『Secret of life』など。

74年東京生まれ。96年よりレコード会社勤務、その後外資系CDショップにてワールドミュージックおよびジャズのバイヤーを5年勤めたのち、02年に初めてブラジルに渡航。当初レコード・ショップ開業のため、買い付け目的での滞在が、現行シーンのあまりの面白さと、その背景の豊かさに触れ、レーベル開業を決意。帰国後レコード会社勤務を経て、04年にNRTをスタート*。音楽の一方的な「啓蒙者・紹介者」としてではなく、「共有者」としての視点をベースに、CDリリース、原稿執筆、ラジオ番組・店舗空間等の選曲・構成、レコーディング・ライブ・DJイベントの企画・制作など、多岐に渡る活動スタイルをテーマとしている。

*08年8月よりmaritmo株式会社として法人化。現在、同社・代表取締役プロデューサー。(レーベル名としてのNRTはそのまま継続。)
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