2010.04.30

Arthur & Sabrina

東京のブラジル音楽シーンで活動しているデュオ、Arthur & Sabrina。
デビュー作となる彼らのアルバムが、今年6月にランブリング・レコーズよりリリースされます。
正式なプレス・リリースは未確認ですが、この作品のPVも撮影している映像作家のRoberto Maxwellより告知希望とのことなので、一足先にご紹介します。

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photo: Roberto Maxwell

今までに彼らのライブは色んな形で見ているのだが、実はこの“Arthur & Sabrina”名義のライブを見たことは、まだない。先日お伝えしたDoces Cariocasのウェルカム・パーティーのようなカジュアルな場での演奏を除けば、彼らと数名のメンバーによるバンド“Zamba bem”に、サブリナのソロ名義を体験しているだけだ。しかも、この原稿を書いている時点では、まだアルバムにも耳を通していない始末。にもかかわらずこのエントリーを書く気になったのは、彼らの音楽に、デビュー前の今だからこそ残しておきたい何かを感じているからに他ならない。

Arthur & Sabrinaは、男性ヴォーカル&ギターのアルトゥールと、女性ヴォーカルのサブリナからなるデュオである。
彼らのようにブラジルから日本にやってきて、プロアマ問わず演奏活動をしている人たちは、水面下にいっぱいいる。けれども、その中で比較的良質だとか、本国でも充分に通用するかも、ということぐらいであれば、毎月のようにブラジルのアーティストが来日する今の時代に聴かれるべき理由にはならない筈だ。

では彼らの何が注目に値するのか?ここでは、まだ若干20才のアルトゥールの声と、楽曲の魅力を挙げておきたい。音質が悪くて気が引けるが、まずは一見を。

この“EDO”という曲、歌詞に渋谷や浅草、六本木というフレーズも登場する、アルトゥールのオリジナル曲。アーティスト写真に反して、彼らの音楽は、しごく真っ当なMPB、ブラジリアン・ポップスの系譜を現代に引き継ぐものだが、彼らの音楽がユニークなのは、そうした楽曲とサウンドを通して、今の東京を生きる生活者としての視点が綴られている点だ。
個人的には、個々のアーティストの作品は、その音楽自体によってのみ評価されるべきで、その出自や逸話などのストーリーとは切り離されて語られるべきものだと思っている。その上で、それでも私たちが現在進行形の音楽を、限りなくリアルタイムで享受したいと望む理由はなんだろう。

いささか告白めいた私見を述べれば、いまこの世界に少なくとも誰か一人は、孤独や悲しみと対峙しながら、それでもヒリヒリとした今を存分に生きている。そんな手応えを、音楽を通して知らず知らずのうちに求めているということはないだろうか。アルトゥールの音楽に含まれる孤独に、国籍や出自を超えた接点を感じつつ、同じ都市に暮らしているという幸運を感じるのだ。

と、ここまで書いておいて、全然つまらないアルバムだったら困っちゃいますが。とにかく一度、ライブを体験してもらいたいアーティストです。
アルトゥールの記述に終始してしまいましたが、サブリナについては、また後日。
とりあえず二人のmyspaceでも覗いてください。

Arthur Vital on myspace
Sabrina Hellmeister on myspace

2010.04.16

monobloco Japan Tour 2010

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文章はとっくに書いていたのだけど、ドーシス・カリオカスのツアーも終了したのでようやく紹介。

結成から10年。リオのカーニバル期、ストリートの風物詩として知られるモノブロコ(モノブロッコ)の初来日が決定。

のっけからミもフタもないことを言ってしまうと、実はこのモノブロコに関しては、これまであまり積極的に追いかけてこなかった。もちろん作品は出るたびに買ってきた(でないと「聴いてないんですか?」と何度も言われるはめになる)。それにもちろん、サンバ・バツカーダ(バトゥカーダ)編成で、サンバ・ヂ・エンヘードからファンキ、ソウル、北東部音楽にニルヴァーナのカヴァーまで、リオのストリートの気分をその時々で表現して支持されてきたそのストーリーには、日本に住むヨソものとしても何かしらの共感を抱いてきた(勝手に)。では、なにがピンとこなかったのか、という点については、必要が生じないかぎりほうっておくようにしているので、ここでは追求しないけれど。


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そこへきて、この新作『monobloco 10』、なかなか良いではないですか。
グループの看板だった巨漢シンガー、セルジャォン・ロローザが脱退して、強烈なフロントマンがいなくなったぶん、より市井の雰囲気というか、いい意味でのアマチュアリズムが浸透して、サウンドにも影響を与えている気がする。ヴォーカルを頂点としたアタックの強さ、勢いで一点突破してきたことが通用しなくなり、結果としてレパートリーやアレンジにも、聴衆とのコミュニケーションを通して獲得されたグルーヴが反映されてきた気がするのだ。これまでの出音が「どうだこれがモノブロコだ!Faz barulho! 踊れ踊れ!」というものだったとしたら、今回は「モノブロコっていいますけど、どうぞ遊んでってね。よしじゃ次の曲、こんな感じ!」というように。そもそもが「カーニヴァル・バンド」である彼らを評してこんなことを言うのも妙といえば妙だし、単純に10年の活動でこなれてきたという理由もあるだろうが、表現としての優劣はともかく、ダンス・ミュージックとしては、後者がいつも前者を凌駕する。ダンス・クラシックの名フレーズをリフに取り入れたりするアイデアも、けっこう気がきいている。
そんなわけでこの初来日、とても楽しみにしています。
本当はグループのリーダー、ペドロ・ルイス夫人でもあるホベルタ・サーも一緒に呼べればよかったのだが、またの機会に。

それでは以下に公演情報を。
ワークショップも開催されるとのことなので、詳細はオフィシャル・サイトをclique!


リオデジャネイロの音楽シーンにおいて絶大な人気を誇るストリート・パーカッション軍団、モノブロッコが、結成10周年記念CD/DVD「Monobloco10」(UNIVERSAL MUSIC)を2010年3月にブラジルにてリリースしました。この新作を携えて、遂に初来日!!
ブラジル音楽に造詣の深い宮沢和史(The Boom)をスペシャル・ゲストに迎え、今までに見た事のない超ド級スペシャルライブが、恵比寿リキッドルームにて、遂にその全貌をあらわにします!

東京公演
2010年6月3日(木)&4日(金)
会場:リキッドルーム恵比寿
¥7,000(当日)
¥6,000(前売)
MC: KTa☆brasil

名古屋公演
2010年6月6日(日)
会場:Samba Brazil Japan
入場料(ドリンク別)
¥5,000(当日)
¥4,000(前売)

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2010.04.14

Doces Cariocas Japan Tour 2010 / Tour Report (still in progress)

先日このブログでもお伝えしたとおり、それぞれソロ・アルバムを出しているミュージシャン夫婦で、
<ドーシス・カリオカス>名義でも共に作品を発表しているアレクシア・ボンテンポ&ピエール・アデルニが現在来日中。

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Photo: Ryo Mitamura

まずは4/10(土)、カフェ・ヴィヴモン・ディモンシュでの公演初日。
この日のライブは、ピエール・アデルニがソロで自作曲を披露する前半と、
アレクシア・ボンテンポが登場して、彼女のソロ・アルバム『アストロラビオ』のレパートリーを中心とした後半部との二部構成。

名前の通りフランス系のルーツを持つピエールの音楽には、ボサノヴァ・シンガーの多くが持つクルーナー感ともまた違う繊細さがある。典型的なパリの男性シンガー・ソングライターたち、例えばマチュー・ボガートあたりを思わせる歌い口は、実はありそうでない個性。でももちろんカリオカだけに、パリジャンたちのそれと比べれば、圧倒的にカラっとしている。色気はあるが、気難しさはない。センシティヴだけれど、内気というのではない。「ブラジルのジャック・ジョンソン」というキャッチ・コピーで知られるピエールだけど、たしかに陽性で、潮の香りがするフォーキーな魅力がある。

一方のアレクシア・ボンテンポも、アメリカ系とブラジル人のハーフで、7才までをワシントンDCに暮らし、その後もブラジルとアメリカを行き来する生活を経てきた。まだ20代前半の彼女が登場して歌い始めると、その場がグッと華やかになる。場内に満たされる「いい女」オーラ。ブラジルの、リオの、現代のイパネマに生きる娘の佇まいを、なめらかな美声が加速させる。彼女の歌声は女性的なふくよかさに溢れているけれど、余韻はとてもすっきりとして、ベタつくことがない。彼女が歌うどんな曲も、まるで彼女の私小説のように聴こえるのだが、それでいて聴き飽きることがないのはそのせいだ。ちなみにアレクシアの2ndアルバムとなる次作は、カエターノ・ヴェローゾの英語詞曲を取り上げる内容で、プロデュースにはアドリアーナ・カルカニョットの別名プロジェクト「アドリアーナ・パルチンピン」のプロデューサー、デー・パルメイラが担当することが決まっているというから、ブラジルでもさらに注目のシンガーになることは間違いないだろう。

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Photo: Ryo Mitamura

こちらは日付変わって4/13、渋谷カフェ・アプレミディでのウェルカム・パーティー。
実は今回のツアーでは、日本酒や寿司好き二人の「オフ担当」として、ライブ後の打ち上げ、鎌倉観光&拙宅でのランチ・パーティー、そしてこの東京でのパーティーの幹事を仰せつかったのだが、ショウ本番はもちろん、こうしたパーソナルな場で聴く二人の音楽はまた格別な味わいがある。
ソファに寄り添い、マイクを通さずにつむがれる静かな音楽。集まった人々がそっと耳をそばだてるなか、音楽が生まれた瞬間のよろこびを多くの友人たちと共有できる、濃密で幸せな時間。二人が三曲ほど演奏してくれたこの後も、6月にアルバム発売が決まったサブリナ&アルトゥール、昨年のヘナート・モタ&パトリシア・ロバート来日時のパーティーにも参加してくれた日野良一くんにも歌ってもらったが、この二組の音楽にはピエールも驚きを隠せない様子。最後にヒロチカーノ氏の先導で「サンバ・サラヴァ」をみんなで歌ったり。ボサノヴァ好きなら誰もがタイムスリップして見てみたい、ナラ・レオンのアパートを思わせる光景だね、との声があちこちで上がっていた。ピエールにそのことを伝えると、本当にその通りだ、でも我が家もいつもこんな風だよ。いつでもたくさんの仲間たち、料理とお酒と音楽であふれてる、お前もウチに泊まりに来い、と。ピエールは共作の多いコンポーザーで、ホドリーゴ・マラニャォンやダヂをはじめ、セウ・ジョルジ、ドメニコ、ガブリエル・モウラらと曲を書いているのだけど、いつもこんな場が発端になっているのだろう。20代前半のときに立ち合わせたら、一発で音楽に対する価値観が、もっと言えば人生が大きく変わっただろう、そんなことを思わせる、静かでゆるぎない音楽と、賑やかなパーティーだった。
したたかに酔っ払っていたため記憶があやふやなのだが、この日来ていただいた中原仁さんも「こういう雰囲気をそのまま、一般のファンにも見せられる場があればいい」ということを言われていた。うん、本当にそういう場を作れれば最高だなと、このことは宿題としてまた考えてみることにしよう。
残り2公演、4/17(金)青山EATS and MEETS Cay、そして翌18(土)の山形・山寺 風雅の国 馳走舍(リンク先は公演主催の山形ブラジル音楽普及協会)は、どちらもインティメイトな雰囲気を味わえる素敵な空間です。(山形は桜も?)
間近で楽しめるこのチャンスにぜひ!

ツアー詳細はこちら(CD試聴のリンクもあります)
制作・企画:Rip Curl Recordings / インパートメント


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BOOKMARK

NRT
THE PIANO ERA
藤本一馬
Kazuma Fujimoto official web

PROFILE


成田佳洋:
maritmo株式会社 代表取締役プロデューサー。レーベルNRT主宰。
静かなる音楽フェスティバル 【sense of "Quiet"】、CDシリーズ/ラジオ番組/イベント 【Samba-Nova】 主催・企画・制作。
世界と日本のピアノ・フェスティバル【THE PIANO ERA】主催プロデューサー(novus axisとのダブル主催)。
音楽ライター・選曲家として、ワールド・ミュージック全般を中心に、ジャズやロック・ポップスなどのフィールドで活動中。ライナーノーツ多数。

74年東京生まれ。96年よりレコード会社勤務、その後外資系CDショップにてワールドミュージックおよびジャズのバイヤーを5年勤めたのち、02年に初めてブラジルに渡航。当初レコード・ショップ開業のため買い付け目的での滞在が、現行シーンのあまりの面白さと、その背景の豊かさに触れ、レーベル開業を決意。帰国後レコード会社勤務を経て、04年にNRTをスタート。音楽の一方的な「啓蒙者・紹介者」としてではなく、「共有者」としての視点をベースに、CDリリース、原稿執筆、ラジオ番組の選曲・構成、レコーディング・ライブイベントの企画・制作などを行う。

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