2008.12.31

【Brasil Best Disc 2008】 #2: ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート "ジョアンに花束を"

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第2位 ヘナート・モタ&パトリシア・ロバート "ジョアンに花束を" (NRT)


 彼らの作品をリリースするのはこれで5枚目になるから、このブログを見てくださっている方には、お馴染みのデュオといっていいかもしれない。メロディメイカーとしての確かな力量とその端正な歌声で、世界中にあまた存在するシンガー・ソングライターの中でも最高の水準に位置するものと思っている。聴く人を選ばぬ親しみやすい音楽だけれど、精神的に澄み切った、邪念のない高みに連れて行ってくれるこんな音楽は、ちょっと他に見当たらない。
 さて、このアルバムで注目されることはと言えば、マリア・ヒタのサウンドの代名詞でもある二人のミュージシャン――チアゴ・コスタ(piano)、シルヴィーニョ・マズッカ(acoustic bass)が全面参加していること。彼らの参加で、これまでにないドライブ感や色彩感がプラスされている。そうしたサウンド面での刺激と、歌声の美しさで、音楽における文学的・詩的表現をさらに深化させた傑作だと思っている。

2008.12.31

【Brasil Best Disc 2008】 #3: Roberto Mendes "Cidade e Rio"

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第3位 Roberto Mendes “Cidade e Rio” (Biscoito Fino)


 ホベルト・メンデスは北東部バイーア州に位置するサント・アマーロ出身の男性シンガー/作曲家。同郷のマリア・ベターニアがよく取り上げることで知られている人だ。バイーア特有「サンバ・ヂ・ホーダ」の王道を往くスタイルで、多くの曲はA-A-B-A*といった構成に朴訥としたヴォーカルが乗るシンプルな音楽だけれど、「バイーアらしい」としか言いようのない風景や匂い、時間感覚を喚起させてくれる。南国のダイナミックな風土にありながら、なお繊細に育まれた感性が、こんな風に飾り気のない表現に結実したときの眩しさといったらない。マイナー・キーを使用せず、オープン・チューニングで演奏されているとおぼしき彼のギターも味わい深く、ハワイのスラック・キー・ギターにも通じる心地よさ。土臭さを損なわず、その実洗練されたアンサンブルも文句なし。カエターノ・ファンも必聴です。

2008.12.30

【Brasil Best Disc 2008】 #4: ジルベルト・ジル "バンダ・ラルガ・コルデル"

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第4位 ジルベルト・ジル“バンダ・ラルガ・コルデル” (ワーナーミュージック)


 「えっ、カエターノよりも?」
 周囲のブラジル音楽リスナーに対して、ジルが自分の一番好きなアーティストであることを告げるとき、かなりの確率で戻ってくる反応がこれだ。そりゃー、両方好きに決まってるんだけどさ。マッチョな音楽性というイメージ、あーあのブラジル人なのにレゲエな人でしょ、という一面的な理解、80年代にLA録音でフュージョンとかディスコティークなサウンドを多く発表してきたこととか、ことどとくマイナスに働いてきたような印象もある。
 まあ、ここでそのイメージ全てを否定しようとは思わないけれども、ジルがブラジル音楽史上、最も思索的、詩的な名曲を生み出してきたポピュラー作曲家であり、同時に身体的に優れたパフォーマーであるということは、重ねて言っておきたい。問題は、その多面的な魅力をバランスよく楽しめるアルバムが、そう多くないことにある。5枚買っても10枚買っても、買う作品や順番によっては、どんなアーティストなのか、ますます掴めない、ということにもなりかねない。
 この新作のいいところは、ジルの今までのサウンド遍歴がバラエティ豊かに収まりつつ、口ずさみたくなるようなメロディにあふれ、しかもフレッシュな躍動感に満ち満ちているところにある。レゲエとフォホーが、シンプルなサンバやアフォシェーのリズムとテクノロジーが、ごく自然に溶け込んでいるこんな音楽はこの人の独壇場だが、気がつけばずいぶんと力が抜けて、ひたすら音楽と人生を楽しんでいる境地にあるようだ。
 
 あえて言えば、個人的にはジルが歌う静かめの曲が大好きなので、弾き語りのパートなどあればなお良かった。そういう向きにはこのアルバムをオススメします。「滋味深さ」と「しなやかな黒さ」の共存した、究極の一枚です。

2008.12.29

【Brasil Best Disc 2008】 #5: Pedro Moraes "Claroescuro"

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第5位 Pedro Moraes “Claroescuro” (independente)


 「新世代サンバ」がどうのこうのと、誰よりも騒ぎ立てておいて何だけど、日本のメディアでSamba-Nova周辺露出が集中した今年前半は、現地シーンにあまり目立った動きがなかったなあ、というのが正直な感想。
 リリースの谷間かな、と思っていたら、今年も秋以降になってから、マルチナーリアやスルル・ナ・ホーダの充実した新作などがリリースされて、改めてこのシーンの層の厚さを見せつけられた。

 なかでも、このペドロ・モラエスという、ブラジル人男性には非常にポピュラーな姓と名を持つシンガー・ソングライターの8曲入りミニアルバム“Claroescuro”の個性は、ちょっとあなどれない。

 経歴等はいまひとつ不明だけれど、現地のマスコミ記事など見ると、ここ数年リオの一大ライブ・スポットとして発展をとげる「ラパ地区」出身のニュー・カマー、ということのようだ。
 完成度という点では荒削りだけれど、「私小説サンバ」と呼びたくなるストーリー性の豊かさ、アレンジの鬼才ぶりは、貴重な個性の持ち主だ。サンバの名曲/オリジナリティ溢れる佳曲を生み出していた70年代中期~後期のシコ・ブアルキあたりに近いフィーリングもある。

2008.12.26

ベストアルバム2008/LATINA09年1月号

月刊LATINAの恒例企画、
「ライター・関係者が選ぶ ベストアルバム2008」に今年も寄稿させていただきました。

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①JULIETA VENEGAS "MTV UNPLUGGED" (NORTE)
②AMADOU & MARIAM "WELCOME TO MALI" (BECAUSE MUSIC)
③BUIKA "NIÑA DE FUEGO" (DRO ATLANTIC)
④TURIBIO SANTOS "INTERPRETA AGUSTÍN BARRIOS" (DELIRA MÚSICA)
⑤V.A. / DEUTSCHE HARMONIA MUNDI 50TH ANIVERSARY EDITION (DEUTSCHE HARMONIA MUNDI)

選出基準は全ジャンルから。
ブラジルとかワールド・ミュージックとか関係なく、感性の開かれた人すべてにオススメいたします。
内容については誌面で触れていただくとして、
順位だけこちらでも発表します。

ブラジルの2008年ベストについては、カウントダウン形式で発表いたします!

2008.12.05

“radio Samba-Nova” O.A.リスト(08年12月放送回)

■「radio Samba-Nova」 vol.9
(2008年12月6日更新)

12月O.A.回は、音楽プロデューサーの中原仁さんをゲストにお迎えして、
2008年のブラジル音楽シーンを振り返ります。
12月第一回目の放送は、12/6(日)21:00からです。お楽しみに!!

※聴取方法: 文化放送UNIQue the RADIOの下記バナーをClique!
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■オンエア予定楽曲

M1. Lenine “A Mancha”
M2. Marcelo Camelo “Vida Doce”
M3. Thobias da Vai Vai “Festa da Vinda”

まずは毎月恒例のニュー・リリース・コーナーから。

M1: サウンドは幾分たおやかに、表現は変わらず尖ったレニーニの新作『LABIATA』から。
M2: 先月<さよならコンサート盤>をオンエアしたばかりのロス・エルマーノス。そのフロントマンの一人、マルセロ・カメーロのソロ・アルバムが登場。マリア・ヒタが彼の曲を好んで取り上げることでも有名ですが、フックのあるメロディ・センスがクセになります。
M3: 今年生誕100周年を迎えたサンバ作曲家、カルトーラへのトリビュート・アルバム『Cartola para Todos』からの1曲です。
サンパウロの名門サンバ・エスコーラ、ヴァイ・ヴァイのシンガー<トビアス・ダ・ヴァイ・ヴァイ>が捧げるカルトーラの名曲です。


M4. “Até Amanhã” V.A.『BGM13』より
M5. TENSAIS MC’S “侍Malandro”
M6. Pato Fu “Made in Japan” V.A.『Brazilian Music 100』より
M7. Maria Rita “Recado”
M8. Gilberto Gil “Geixa no Tatame”
M9. Adriana Calcanhotto “Maré”
M10. Pedro Moraes “Samblefe”
M11. Moinho “Saudade da Bahia”

ここからは中原仁さんをお迎えして、2008年のブラジル音楽シーンを早足で振り返ります。
日本ブラジル移民100周年を象徴する2アーティストの曲に、今年来日を果たしたビッグネーム、2009年以降が楽しみな注目株まで。
番組の最後に重大発表も…

毎月60分お楽しみに!!


■番組タイトル:「radio Samba-Nova」
■パーソナリティ:成田佳洋ROSE
■放送日時: 
毎週日曜日21:00~22:00
木曜日19:00~20:00再放送
※毎月第一日曜日更新
■番組宛メール: samba@joqr.net

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NRT
THE PIANO ERA
藤本一馬
Kazuma Fujimoto official web

PROFILE


成田佳洋:
maritmo株式会社 代表取締役プロデューサー。レーベルNRT主宰。
静かなる音楽フェスティバル 【sense of "Quiet"】、CDシリーズ/ラジオ番組/イベント 【Samba-Nova】 主催・企画・制作。
世界と日本のピアノ・フェスティバル【THE PIANO ERA】主催プロデューサー(novus axisとのダブル主催)。
音楽ライター・選曲家として、ワールド・ミュージック全般を中心に、ジャズやロック・ポップスなどのフィールドで活動中。ライナーノーツ多数。

74年東京生まれ。96年よりレコード会社勤務、その後外資系CDショップにてワールドミュージックおよびジャズのバイヤーを5年勤めたのち、02年に初めてブラジルに渡航。当初レコード・ショップ開業のため買い付け目的での滞在が、現行シーンのあまりの面白さと、その背景の豊かさに触れ、レーベル開業を決意。帰国後レコード会社勤務を経て、04年にNRTをスタート。音楽の一方的な「啓蒙者・紹介者」としてではなく、「共有者」としての視点をベースに、CDリリース、原稿執筆、ラジオ番組の選曲・構成、レコーディング・ライブイベントの企画・制作などを行う。

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